日本認知症学会

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高島 明彦

学習院大学 理学研究科 生命科学
高島 明彦

認知症の研究に関わるようになった経緯

脳のことを知りたかったのですが、九州大学の生物学科ではそれに類するのはゴキブリやハエの神経を使った電気生理学でした。最初は電気生理を行なっていたのですが脳をやりたいのなら組織学から勉強せよということでハエの脳(正確には頭部神経節)の切片からカテコールアミンを検出する手法を用いて分布を調べたのが始まりです。その後、佐賀医科大学で培養細胞PC12を使いながら生化学、細胞生物学を学びました。留学先ではムスカリン受容体を介したカテコールアミン放出機構をしていて、この時にアルツハイマー病の話題を聞いたことがあります。その後、アカデミアでの研究職がないため三菱化成生命研で36歳二人の子持ちで、これがラストチャンスとばかりにポスドクとしてシナプス形成に関わると考えられる蛋白について研究を行なったのですがシナプス形成とは関係ないことを見出し、職を失いかける。必死でした。これを見かねた所長から、アルツハイマー病の研究をしているグループでTPK Iをクローニングしたら研究員にしても良いというので、アルツハイマー病は脳の病気だしどこかで繋がるだろうということで自分を納得させTPK Iの研究を始めました。ちなみに、クローニングは他の人にされてしまったのですがβアミロイドで活性化することを見つけ、無事、研究員になることができた訳です。きっかけは生活の為でしたが、そこからはアルツハイマー病の家族の方などと話す機会もあり、もちろん私の母もアルツハイマー病でしたので、なんとか助けたいという思いで研究を続けています。

研究や臨床で大切にしていること

知りたいことを常に思い続ける

前述したように私の研究はハエの脳から始まって培養細胞、動物モデルと進む訳ですが、何をやるにしても脳のことを知りたいという思いは常に持ち続けていました。紆余曲折、八方塞がりのような状況でも思い続けると、大きな壁のどこかに進む道が見えてくるような気がします。私の場合は常に思い続けることで、皆さんの助けを借りながら「ナビゲーションとアルツハイマー病」という脳の研究テーマにようやく辿り着いたところです。

今後の医療や研究への期待

治療の可能性が出てきたことから、ますます、診断治療の方向へ研究は進むのだろうと予想します。一方、病的老化から治療に至る人の数を減らすための予防法開発が今後ますます重要な課題となってくると思います。認知機能低下の症状がない病的老化をどのように定義し、その進行度を定量化するのかから議論を始める必要があるでしょう。脳機能を基礎にした研究の展開に期待しています。

若手へのメッセージ

誰もやってない研究をやれ

いつの時代も流行りの研究というのがあり、そこで研究費をもらっている人たちを羨ましく思っていました。三菱生命研の時には初代所長の江上不二夫語録が語り継がれていて、これは先輩からテニスコートで聞かされた話です。「研究というのは闇夜の道中に電灯をつけることだ」つまり、何もないところに電灯が付くと進むべき道が見えるようになるのでみんながそこにやって来る。電灯の下ではなくて、何もないところに電灯をつけるような研究をしなさいということでした。常に頭の片隅にこの言葉があり、流行りではない研究でも自分が重要だと思う研究を自信を持って進められています。

小さく纏るより大きく弾けよ

大学の恩師である森田弘道先生から贈られた言葉です。どっちの進路に行くか迷った時の羅針盤のような言葉です。小さく安定した場所より大きく爆発できそうな場所を選択するようにしています。人生は1回ですから大きく行って弾けたいですね。