日本認知症学会

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認知症とは?認知症をきたす主な病気

認知症の主な疾患

認知症を起こす病気はいくつもあります。一般的には、アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症の頻度が高く、4大認知症と呼ばれています。このうち、アルツハイマー病が最も多く、過半数を占めています。高齢になると、「その他の病気による認知症」の項目に示すような「神経原線維変化型認知症」あるいは「嗜銀顆粒性認知症」といった疾患が増えてきたり、いくつかの病態を併せ持つ重複病理(アルツハイマー病と血管性認知症の合併など)も増えてきます。

以下に、代表的な疾患について解説します。

アルツハイマー病

認知症の原因の半数以上を占めるのがアルツハイマー病です。アルツハイマー病は,多くの場合,「同じ話を繰り返す」,「同じことを何度も聞く」,「物をどこに置いたかわからない」といったもの忘れ症状から始まり,次第に薬の管理やお金の管理といったことができなくなり,しまいには身の回りのことができなくなってしまう病気です。もの忘れ症状だけで日常生活は人の助けを借りなくても一人でできる状態を「軽度認知障害」,もの忘れや考える能力の低下といった症状のために日常生活に人の手や目が必要な状態を「認知症」と言います。アルツハイマー病では,正常→軽度認知障害→認知症と進行していきますが(図1),おおむね年単位のゆっくりした進行です。

図1 アルツハイマー病の経過と,薬の適応範囲
アルツハイマー病では症状が出るよりも15~20年前からアミロイドβがたまり始めています。
その状態での薬を用いた治験も行われています。

 

しかしながら,アルツハイマー病という病気の本質は,脳の中の物質的な変化にあります。脳の中にアミロイドβと呼ばれるたんぱく質が異常に蓄積する病気と言いかえることができます。アルツハイマー病の患者さんの脳では,アミロイドβたんぱく質が徐々に蓄積し,最終的にはたまったものがガチガチに固まった老人斑と呼ばれる脳のシミになります(図2)。アミロイドβたんぱく質が徐々にたまる過程で,ある形のアミロイドβたんぱく質が神経細胞に対して毒となり,神経細胞の中でタウたんぱく質という別のたんぱく質を介して神経細胞のはたらきを悪くし,最終的には神経細胞が死んでしまいます。その結果,もの忘れといった症状が生じます。この一連の流れを考えると,もの忘れなどの目に見える症状は最終的な結果であり,アミロイドβたんぱく質の蓄積は,実は症状が出る15~20年も前から水面下で始まっていることがわかってきています。

図2 アルツハイマー病の脳を顕微鏡で見たもの
老人斑と呼ばれるシミが無数に見られます。これはアミロイドβたんぱく質が固まったものです。

 

従来から,神経細胞と神経細胞の連絡をよくする薬や,神経細胞の過剰な興奮を抑える薬が用いられてきました。ただ,こういった薬は症状を緩和する効果はあるものの,アルツハイマー病の物質的な変化を食い止めるものではなく,進行を遅らせるものではありません。2023年9月に,進行を遅らせる効果のある初めての薬・レカネマブがわが国でも承認されました。レカネマブはアミロイドβたんぱく質に対する抗体(抗体とは,異物を排除するために付けるタグのようなもの)で,アミロイドβたんぱく質を除去することにより,進行を遅らせる効果が期待されます。ただし,アミロイドβたんぱく質がたまっている方にしか効果はありませんし,重症度が高い方には効果がありません。また,重要な副作用も知られているため,使用する前に,認知機能検査,バイオマーカー検査(脳脊髄液検査またはアミロイドPET)やMRI検査など様々な検査によって条件をクリアした方のみが使用することができます。

レカネマブの他にもアミロイドβたんぱく質を除去する薬や,アミロイドβたんぱく質が作られないようにする薬,タウたんぱく質に作用する薬などが開発されています。将来的には,脳の中の物質的な変化がどのステージにあるかによって薬を使い分けるようになるかもしれません。また,症状はないけれどもアミロイドβたんぱく質がたまっている段階で薬を投与すると症状が出るのを防ぐことができるかといった超早期治療についても,現在治験が行われています(図1)。

血管性認知症

認知症の原因で最も多いのがアルツハイマー病であり、ついて多いタイプが血管性認知症になります。血管性認知症は、その名の通り脳血管の障害から認知症に至った状態を示します。急性期から慢性期まで様々な原因より脳の血管が障害され、認知症に至るのが血管性認知症です。急性期疾患である脳卒中(脳梗塞や脳出血、くも膜下出血)がもとで認知機能の低下を来した状態、慢性適な血流障害(脳低灌流や脳循環不全などとも言います)により認知機能低下が引き起こされ、認知症に至ります。慢性的な血流障害は毛細血管などの小さな血管が徐々に障害され、大脳白質病変という広範囲の変化をきたしたり、ラクナ梗塞や微小梗塞といったごく小さな脳梗塞を起こしたり、微小出血というごく小さい病変が認められたりします。血管性認知症はアルツハイマー病との合併について様々な報告がされており、特にこのような脳の小血管が障害されるタイプが関連するといわれております。

血管性認知症状は障害される脳の部位で様々な症状を呈します。物忘れや見当識障害といったアルツハイマー病でも認めるような症状が出現しますが、パーキンソン病に似た歩行障害、しゃべりにくさや飲み込みにくさを呈する構音障害や嚥下障害といった症状も認めます。さらに順番通り物事を実行することが困難になる遂行機能障害を認めることがあります。さらに脳血管障害を起こすと症状が悪化するため、階段状に症状が進行することもあります。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies, DLB)は認知症の中ではアルツハイマー型認知症(Alzheimer’s disease dementia, AD)に次いで多い病気で,認知症の原因のうち10~15%を占めます.ADではもの忘れ(記憶障害),日付や曜日が曖昧になる(見当識障害)などから始まることが多いですが,DLBではもの忘れのほかに,次のような特徴的な症状がみられます.

1) リアルな幻視:実際にはいない人物の姿などがありありと見えます.「3人の小さな女の子が部屋の中を歩いている」(図1)など,本人には現実のように感じられる幻視が繰り返しみられます.

2) 覚醒度・認知機能の変動:1日のなかで時々,ぼんやりとして会話がちぐはぐになったり反応が鈍くなります.しっかりしている時間は普通に会話でき,「しっかり」と「ぼんやり」を繰り返します.

3) パーキンソン症状:動作や歩行がゆっくりになり,声が小さくなります.時には手の震えがみられることもあります.

4) レム睡眠行動異常症:夜中や明け方にはっきりと寝言を言ったり,うなされるようになります.時には寝言だけでなく夢の中の動作が実際に現れて,手を振り回したり脚を蹴ったりすることもあります.この症状は認知症が始まる何年も前からみられることがあります.

図1 幻視「小さな女の子が部屋の中を歩いています」

 

DLBでは病気の初期,時にはもの忘れが目立たない時期からこれらの特徴的な症状がみられますが,4つの症状がそろう患者さんは多くありません.4つの症状のうち2つがみられた場合,DLBと診断されます.特徴的な症状が1つだけみられる場合は,診断を確認するための検査として,(1)心臓の自律神経機能低下を調べるMIBG心筋シンチグラフィー検査,(2)脳内のドパミン機能低下を調べるドパミン・トランスポーター機能検査(ダットスキャン),(3)レム睡眠異常を調べる睡眠時脳波検査,のいずれかを行い,検査が陽性ならDLBと診断されます.

DLBはαシヌクレインという蛋白から成る「レビー小体」が神経細胞に蓄積するのが原因で生じる病気です.同じくレビー小体の蓄積が原因となる病気にパーキンソン病がありますが,パーキンソン病ではレビー小体の蓄積が脳幹部に限られるのに対して,DLBでは大脳の広い範囲にレビー小体が蓄積します(図2).

 

図2 レビー小体の分布と臨床病型の関係

 

DLBでみられる症状は多彩で,精神症状では幻視のほかに実体意識性(人の気配を感じる),幻聴(声や音楽が聞こえる),人物誤認(親しい人を別人だと思う,伴侶は1人なのに複数いるという),被害妄想(お金を盗られる,伴侶が浮気している)などがみられることがあります.錯視といって物の見間違い(布団だけなのに人が寝ているようにみえる,など)もよくみられます.また,抑うつ気分やうつ病を合併することもあります.自律神経症状の頻度も高く,便秘,頻尿,尿漏れ,起立性低血圧(立ちくらみ,時には失神)などがみられます.

治療としては,現時点ではレビー小体の蓄積を除去する根本治療薬はなく,各症状に対する対症療法を組み合わせて治療します.認知機能低下や幻視にはコリンエステラーゼ阻害剤(ドネペジルなど)が効果がみられます.うつ病の症状には抗うつ薬を使用します.妄想や興奮が強い時には抗精神病薬が必要になることがあります.パーキンソン症状にはパーキンソン病治療薬(L-DOPAなど)を使用します.起立性低血圧は失神を生じることがあるので,内服治療に加えて長風呂を避けるなど生活の工夫も大切になります.

DLBでは各種症状を緩和するために薬を使用しますが,他の認知症に比べると薬の副作用を生じやすいので注意が必要です.抗精神病薬で体の動きが悪くなったり,総合感冒薬や尿失禁治療薬で幻覚がひどくなったりすることがあります.いろんな薬に過敏な傾向があるので,新しい薬を使い始めてから調子が悪くなったときには担当医にすぐご相談ください.

DLB患者さんを介護するにあたっては,幻覚や錯視への対応,転びやすいことへの対策など,AD患者さんを介護するときとは違った配慮が必要になります.


参考文献

*図1はAI(Bing Copilot)で作成

前頭側頭葉変性症

初老期(65歳未満)に発症することが多く、大脳皮質の中で、前頭葉や側頭葉を中心に萎縮がみられる病態です。いくつかの異なる病気が含まれています。タウ、TDP-43、FUSなどの異常蛋白質が蓄積しますが、その機序は全くわかっていません。タウたんぱく質が神経細胞の中で「ピック球」という構造をとって蓄積する病気(ピック病)、TDP-43というたんぱく質が蓄積する病気などが代表的な病態です。脳の萎縮は前頭葉と側頭葉に強く,アルツハイマー病との比較では,物忘れよりも,自発性や関心の低下,言語障害,行動の変化などが目立ちます。頻度は認知症全体の数%ですが,初老期発症の認知症の中では10%以上の割合を占めると考えられています。病気のタイプによっては、指定難病に認定される場合もあります。

その他の病気による認知症

超高齢者に多い疾患として、神経原線維変化型老年認知症と嗜銀顆粒性認知症がありますが、この二つの疾患は、生前診断することが難しく、病態や詳細な頻度などはまだわかっていません。

アミロイドβたんぱく質(老人斑)とタウたんぱく質(神経原線維変化)の両方が蓄積するアルツハイマー病と異なり,神経原線維変化だけ蓄積するのが神経原線維変化型老年認知症です。頻度は認知症全体の数%ですが,高齢者になるほど割合が高まり,90歳以上で発病する認知症は20%がこの病気であると考えられています。もの忘れが症状の中心で,非常にゆっくり進行することが多いとされています。

嗜銀顆粒とはタウたんぱく質の異常蓄積の一種で、嗜銀顆粒だけがたくさんできて認知症を引き起こす場合を嗜銀顆粒性認知症と呼んでます。この疾患も超高齢者ではかなり多いことが知られており、症状はもの忘れが中心ですが、怒りっぽくなる症状を呈する人もいます。

上記のほかに,ひとつひとつの病気の頻度は低いですが,進行性核上性麻痺,皮質基底核変性症,クロイツフェルト・ヤコブ病など様々な病気によって認知症が起こります。また,認知症と同じような症状を起こすことがあるけれど,適切な治療によって回復する可能性がある病気がいくつもあります。たとえば,慢性硬膜下血腫,正常圧水頭症,脳腫瘍,高齢期のうつ病,甲状腺機能低下症やビタミンB欠乏症などの代謝・栄養疾患,などです。認知症の診断をする時にいろいろな検査をするのは,これらの,治療法が全く異なる病気ではないかどうかを調べる,という意味もあります。