日本認知症学会

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羽生 春夫

総合東京病院 認知症疾患研究センター長/東京医科大学名誉教授
羽生 春夫

認知症の研究に関わるようになった経緯

私が認知症と関わりを持つようになったのは、臨床研修の後、東京都老人総合研究所(朝長正徳部長、東大脳研神経病理学教授)で神経病理の勉強を開始させていただいた時に始まる。ここでは毎週多数例のbrain cuttingが行われ、肉眼、顕微鏡を通して生前の神経症状と病理所見との対比が行われていた。特に、脳血管障害や認知症、神経変性疾患の病理を学ぶことができた。アミロイドアンギオパチーに関する研究で論文を書かせていただき、これが私の学位論文にもなった。ここでの経験が、その後の神経病学の理解や現在の認知症の臨床や研究に大いに役立つことになったと思う。

研究や臨床で大切にしていること

認知症研究は過去50年の間飛躍的な進歩を遂げてきた。病態生理の解明とともに、画像診断やバイオマーカーの進歩によって早期診断や発症前診断が可能となってきた。さらにADに対する疾患修飾薬も登場し、新たな治療が開始できるようになった。しかし、ADは臨床病理学的に決して均一な疾患ではなく、経過も多様であり、患者の病態に応じた適切な治療や対応が求められるべきである。この点で、患者をよく“視る”ことが重要であると思う。詳細な臨床観察と縦断的なフォローによって新たな知見が得られることは少なくなく、この積み重ねが臨床力の向上につながり、認知症患者に最適な医療を提供できることになる。私が提唱した“糖尿病性認知症”という概念も、臨床観察と縦断研究に基づいて明らかとなった病態である。第38回日本認知症学会学術集会(2019年、東京)を主催させていただいた時の会長講演のまとめと特別講演の講師として来日された先生方とのランチの時の写真を示す。

若手へのメッセージ

研究手法の進歩や新たな検査法の開発、登場によって、今まで予想もできなかったような発見や事実が明らかとなることは少なくない。若い研究者の皆様には、過去の常識にとらわれることなく、柔軟な思考で研究に当たっていただきたい。過去の常識が現在の非常識となることや、その逆も稀ではないからである。最後に、福沢諭吉先生の「進まざる者は必ず退き、退かざる者は必ず進む(現状維持は退化なり)」という言葉を贈り、若手研究者の今後の活躍を祈念したい。