オンライン若手キャリア座談会 2025年5月
参加者( )内は大学卒業年度
関谷 倫子 国立長寿医療研究センター 認知症先進医療開発センター (1998年度卒)
羽田 沙緒里 産業技術総合研究所 バイオものづくり研究センター (2006年卒)
前田 純宏 慶應義塾大学 医学部 (2001年度卒)
皆川 栄子 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 (2003年卒)
富田 泰輔 東京大学大学院薬学系研究科 (司会、基礎研究促進委員会)
自己紹介
富田:皆さん、どうもお忙しい中ありがとうございます。早速始めたいと思います。まず初めに、それぞれの先生に簡単に研究を紹介していただこうと思います。前田君からお願いします。

前田:私は、学生の頃からずっとタウタンパク質の研究をしています。インビトロのタウ凝集体形成モデルから始まり、アメリカに行ってから動物モデルを作りました。日本に帰ってきてからは、ヒト細胞を用いたタウ研究をやっております。
富田:はい、ありがとうございます。じゃあ、皆川さんお願いします。

皆川:私は、神経変性疾患を克服するための病態研究と治療法開発を軸に、現在は主に①神経変性疾患と睡眠、②霊長類を用いたアルツハイマー病モデル開発、の2本立てで進めています。
富田:はい、ありがとうございます。関谷先生、よろしくお願いします。

関谷:アルツハイマー病の研究をしています。主にマウスとショウジョウバエを使っていますが、最近はヒトの剖検脳を使った研究もしています。アルツハイマー病におけるグリアや神経血管ユニットとアミロイドとの関係とか、ショウジョウバエを使った研究では、アミロイドの形成に関わる物質の探索などをしています。
富田:はい、ありがとうございます。羽田先生、よろしくお願いします。

羽田:私は、これまではアルツハイマー病の治療や診断法の開発を目指した研究を行ってきたんですけれども、現在はアルツハイマー病とか神経変性疾患に予防的な物質を見いだすための培養細胞モデル系の構築に取り組んでおります。予防法の開発なので、食品由来の機能性成分など、そういったものを見出していきたいと思っています。
これまでのキャリアについて
富田:はい、ありがとうございます。今日のメインはキャリア座談会ということで、それぞれの先生がどうして今ここにいるか、研究することになったかということを聞いてみたいと思っています。まず前田先生はPhDなので、認知症の研究に入ろうと思ったきっかけを教えてもらえますか?
前田:もともと『忘れる』という現象自体を研究したくて、その入口として認知症研究を選びました。修士課程から、理化学研究所のアルツハイマー病研究チームの門を叩き、そこで高島明彦先生がタウの研究をしていたので、以来ずっとタウの研究をしています。
富田:そうすると、どちらかというと基礎的な記憶の研究をしたいという時に、あえて病気の研究を選んだっていう感じになりますかね。
前田:はい、おっしゃる通りです。
富田:それは、なかなかその当時としては珍しい考え方だったかなと思いますけど。認知症にももともと興味があったっておっしゃっていましたけど、なにか興味の接点があったんですか?
前田:祖母が認知症だったので、元々興味がありました。また、忘却の源は想像にありっていう仮説を考えていて、それを研究したいし、病的な忘却も研究したいしということで、この分野に飛び込んだということになります。
富田:ありがとうございます。じゃあ次、皆川先生はMDですよね。こういう研究をすることになったきっかけを教えてもらえますか?
皆川:私は医学部に入ったときから研究も臨床も両方やりたいと思っていたのですが、たまたま放課後に研究室で実験を経験したことが基礎研究に触れた出発点です。臨床では脳神経内科に進み、大学院では京都大学の高橋良輔先生の研究室の門を叩きました。いろいろ悩みましたが、留学を経て、その後も基礎研究を続けるという道を選びました。ポスドクの時に、自分のテーマを持ってみたらと言っていただき、実際に患者さんを診る中で神経変性疾患の患者さんの睡眠にとても興味を持っていたので、そういう切り口で研究を始めました。自分が臨床で見ていたものがモチベーションとしてあり、そこに研究者としてトレーニングを受けてきたスキルを組み合わせて研究をしています。
富田:はい、ありがとうございます。次、関谷先生、お願いします。
関谷:はい。皆さんと違って私は、修士を出てから一度就職しています。もともと認知症とも全く関係のない漢方の研究をしていて、会社からまた(社会人学生として)大学に戻ったのですが、その時に研究していたのが、マウスモデルを使ったALS研究です。当時、マウスを何百匹と一人で面倒を見るのは大変で、何か他に疾患モデルがないのかなと考えていた時に、ショウジョウバエのアルツハイマー病モデルを確立した今のボスの飯島浩一先生と安藤香奈絵先生がボスドクを募集しているのを発見しました。私は、全くショウジョウバエというものを知らなかったので、マウスに比べてすごく軽いし、すごく楽だし、じゃあそれを研究に取り入れるのもいいかなと思って留学して、ショウジョウバエの研究を始めたのが認知症との出会いです。その後、国立長寿医療研究センターに移りました。その時の部長が柳澤勝彦先生でした。柳澤先生が作った認知症先進医療開発センターは半分以上がお医者さんなんです。臨床の先生と基礎の先生とが一緒になって研究を進めているのを見て、より認知症研究に興味を持ち、今に至ります。
富田:なるほど。ありがとうございます。じゃあ、羽田先生、お願いします。
羽田:はい。私が大学に入る頃は、ヒトゲノム計画がすごく盛り上がっている時期でした。遺伝子情報をもとに治療法を個別化できるテーラーメイド医療というコンセプトを知って、すごく興味を持ちました。薬学部で研究室配属の時に、もともとアルツハイマー病に特別に興味があったわけではないんですけれども、一番ヒトの病気に関連した研究室として、北大薬学部の鈴木利治先生のラボに入ることにしました。そこで博士も取って、助教として採用してもらい、ずっとアルツハイマー病の研究を進めてきました。共同研究で患者さんの検体を供与していただき解析する機会を得る中で、アルツハイマー病の診断が結構難しくて、また病理が混ざっている方もいるということを知り、その人に最も適した治療法を開発できるような基礎研究をしたいと思うようになりました。今、産業技術総合研究所にいますが、いろんなバックグラウンドを持つ研究者がいるので、ヒトの疾患というものについて、改めていろんな方面から解析をすることを目指しています。
今後の研究の見通しについて
富田:はい、ありがとうございます。ここまでで皆さんの背景がよく分かりました。抗体医薬が実臨床で使われるようになり、いろんな現実が見えてくると同時に、『次にどうするか』が重要になってきています。まずは研究の話として、今後の方向性などを伺えればと思います。
前田:レケンビやドナネマブがでてきて、治療の個人差が非常に大きいことが明確になってきました。マウスモデルでは反映しにくいこの個人差を、患者由来iPSや体細胞から直接誘導した神経細胞など、ヒト由来の系を用いて捉えたいと考えています。また臨床の先生方と連携して、臨床情報と結び付けて解析することで、どの患者さんにどの介入が効くのかを整理していきたいです。
富田:ありがとうございます。テーラーメイドっていうのは、ちょうどさっき羽田先生の話にも出てきたと思うんですけれど、羽田先生的には、そういったことに関して、今後どういうふうに進めるべきなど、何かご意見ありますか?
羽田:自分でもマーカー候補分子の解析はしていますが、最終的には『簡便に脳の状態を知る』血液バイオマーカーが鍵だと思います。診断だけでなく、治療のモニタリングや予防介入の評価にも使える形にして、個々人に合った医療につなげたいです。
富田:皆川先生は臨床の経験から患者さんの多様性を感じられていると思いますが、モデル研究とのギャップについて、どう感じますか?
皆川:そうですね。抗体医薬はモデルベースの研究を中心に積み上げられた成果で、それがいよいよ実臨床に届いたという点で大きな前進だと思います。ただ、臨床で実際に患者さんを診ていると、年齢、併存症、生活背景など多様性が非常に大きく、単一モデルだけでは拾えない要素が残ります。病態を理解するためのコア情報をうまく抽出してより良いモデルを作って、そのモデルがヒト病態の何を模倣しているかということをきちんと意識した上で利用し、基礎研究の成果を臨床に返していくというプロセスが大事なんだろうなと思います。
富田:ありがとうございます。関谷先生、さっきお話を伺って、漢方なんて個人差の塊っていうか、効く人、効かない人いると思うんですけど、それをALSの研究でやっていらっしゃったっていうのは面白いなと思うんですが。その時とは逆に、今ショウジョウバエみたいなすごくシンプルで画一化された手法をやってきて、そういった観点から、テーラーメイド医療とか診断とか、なにか思うところありますか?
関谷:漢方から離れてだいぶ経つので、なんとも言えないですけど。アルツハイマー病に関して言うのであれば、もちろん抗体医薬があればアミロイドを取り除けるんですけれども、たくさんある周辺症状などには漢方も効くのかなと思います。漢方は、その処方が効く人効かない人がいますし、それが得意な病気とそうじゃない病気ってあると思うんですけれども、抗体医薬と一緒に飲むこともできると思うので、一つの選択肢になるのかなと思います。
富田:古い話ですみません。もし今の研究、もちろんマウスがメインだと思うんですけれど、そういったところと、バイオマーカーも含めて追加であれば。
関谷:今は、アミロイドを取り除くことができるようになったと思うので、それ以外のターゲットを見つけることがまず一つかなと思います。私自身は、アミロイドができないようにする、アミロイドがあっても神経が死なないような保護的なターゲット、あるいは神経が再生するような何かを、ショウジョウバエやマウスを使って見つけられたらいいなと思います。
富田:Aβ抗体医薬が実臨床で使われるようになり、Aβ・タウ標的の「次」がより重要になってきたと思います。日本からも新しい標的やモダリティで良い薬を出していく努力が必要ですね。
富田:ここからは少し研究から離れて、キャリアとライフの両立について伺います。前田先生からお願いします。
前田:私が一番伝えたいのは、他人の意見や助言をよく聞くことと、人との縁を大事にすることです。良いメンターや仲間に出会うと、研究だけでなく生活面の相談もしやすくなります。留学先であるGladstone研究所のLennart Mucke教授も、研究者としてどうあるべきかという話を、大真面目にしてくださるような人でした。私もだいぶ長時間働く方だったんですね。でもそうしたら、ある時Lennartが、自分で働く時間は必ず自分でコントロールするようにしなさいと。そうしないと、あなたの人生はあなた以外の何者かによって制御される人生になってしまうと。自分の人生は自分で制御しなさいって言ってくれて、あ、これはちゃんとQOLのことも考えなさいって言われているんだな、と思いました。
富田:研究に没頭する時期は必要ですが、同時に、横のつながりや相談できる相手を持つことも重要だと感じます。
富田:では皆川先生、臨床と研究の両立や優先順位の置き方について、ご自身の経験からお願いします。
皆川:そうですね、日本人はハードワーカーと言われますが、留学して海外の研究者の時間の使い方を学ぶことが多かったです。例えば、一流誌にどんどんペーパーが出るようなラボでも、夜7時になったら誰もいないとか。集中して研究を進める時間と、それ以外の時間を意識的に切り分けていて、結果として長く走れる印象でした。また、MD/PhDをもったミシガン大学のHank L. Paulson教授からは、臨床モードと研究モードを切り替えつつ相乗的に研究を進めることも学びました。自分に合った環境やリズムを選ぶことも、両立のコツのひとつだと思います。
富田:ありがとうございます。じゃあ関谷先生、いかがですか?研究やる時間とかもそうですけど、キャリアとライフの関係とか、そういったところで考えていることがあれば。
関谷:あまりそういうことを深く考えたことがなかったですけど、若い人はちゃんと切り分けているのかなと感じます。私の年代だと遅くまで研究室にいるのが普通でしたが、今は、ずっとラボにいればいいというわけではなく、うまく時間を使い分けて成果を出す人が多い印象です。私は実験が楽しいので、結局は実験してしまいますけど。
富田:まあでも楽しいのが一番。それがベスト。じゃあ、羽田先生、いかがですか?
羽田:私はずっと札幌で生活していて、結婚・出産をしたのですが、産総研に移った時に、つくばに着任になったので、夫に子供を預けて私一人単身赴任で研究生活を送っていました。でも産総研は北海道センターもあるので、異動希望を出したところ、札幌に移ることができました。今は家族で同居して、子育てと研究をしています。結婚とか出産とかのライフイベントで、それまでと同じ働き方ができなくなるようになってしまったとしても、様々な制度や環境が整備されて、協力してもらいながら研究が続けられるようになってきているなと思っています。これから先さらに、男性、女性に限らず働きやすくなると思います。体力や時間の許す限り仕事に打ち込むというのも、もちろんオッケーなんですけれど、そうじゃない働き方・生き方も受け入れられつつあると思うので、ぜひ研究者を目指していただきたいなと思っています。
今後について
富田:ありがとうございます。続いて、若手研究者をどう育て、どうリクルートしていくかも重要なテーマです。皆さんのご意見を伺います。まず羽田さんからお願いします。
羽田:そうですね、大学を離れてしまって学生さんと接する機会は少なくなりましたが、若手の方々は本当にやる気があると感じます。一方で、博士課程に進むことや海外に出ることに不安を持つ人も多いのも確かです。国内だけでなく、海外も含め、本当にいろんなキャリアの方がいろんな研究をしているということを是非経験してほしいと思います。また、そういう人達と交流し続けていってほしいと思います。
富田:ありがとうございます。じゃあ、関谷先生。皆さん、若手の会もやっておられて、いろんなところから来る学生さんを見る機会も多いと思うので、そういったことも含めて若手研究者をどうやって育成したらいいか、何かありますか?
関谷:私のいるセンターは基本的に学生さんがいないので、若い人と接することはあまりありません。なので、認知症学会若手の会が一番若手と接することのできる機会ですが、若手の会に来る学生さんはとても意欲的だと感じます。また、学会発表や短期留学だけでなく、ラボで一緒に研究をする外国研究者との交流とか、早い段階でいろんな外の世界に触れる機会を増やすと視野も広がると思います。
富田:最近は日本人で博士課程に進む人が減り、外国人研究者の多いラボも増えていますね。では皆川先生、若手研究者育成についてお願いします。
皆川:臨床の現場を離れると臨床に戻れなくなるんじゃないかと心配していた時期に、「『研究に使う時間は医師人生の何割か』と考えてみたら、まずは大学院の数年ぐらい研究に使ってもいいんじゃない」とアドバイスいただいて目から鱗でした。また当時の受持ち患者さんから基礎研究への期待をお聞きしたことも大きなモチベーションになりました。臨床に戻る道は多くあるので、まずは大学院で研究に触れてみることが大事だなと思います。また、一歩踏み出して、仲間やメンターとの良い出会いを作ることも大事だと思います。若手の会のような場は、その出会いを作る意味ですごく良い会だと思います。
富田:MD、PhDに関係なく、患者さんがいて、自分の研究がどういうふうに患者さんにつながっているかというところを意識できると、モチベーションになりますね。
富田:それでは最後に、前田先生から若手研究者育成について追加があればお願いします。
前田:研究者として生き残る為には、想像以上に大変な面ばかりです。それでもやっぱり楽しみもあります。海外の一流研究者と研究の話をするのは楽しいし、自分の研究に対していろんなインプットがあるのも楽しいし、共同研究が広がっていくのもなかなか楽しい。いい面悪い面、両方理解しつつ、迷いながらでも続けてほしいと思います。
富田:そろそろ時間なので締めたいと思います。皆さんのお話から、やっぱり楽しいことをするというのが一番重要ということと、いろんな人とのつながりをそれぞれの先生が大事にされて、その中で自分の研究者としてのキャリアを見出してきたのかなというふうに思いました。今度は皆さんが若い人に提供していく側として、学会の活動だけじゃなくて、それぞれの研究でもいろいろやっていただければなというふうに思います。
富田:今日はどうもありがとうございました。



