日本認知症学会

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A natural experiment on the effect of herpes zoster vaccination on dementia
帯状疱疹ワクチン接種が認知症に与える影響に関する自然実験

Nature. 2025 May; 641(8062): 438-446.

スタンフォード大学の研究グループは、ウェールズにおける公衆衛生政策を活用して帯状疱疹ワクチン接種と認知症の関連を調査しました。その結果、帯状疱疹ワクチン接種が認知症発症リスクを低減させる可能性をNatureに報告しました。

イギリスのウェールズにおいて、2013年9月1日時点で80歳未満(1933年9月2日以降に生まれた人)の人は、帯状疱疹ワクチン「Zostavax」の接種対象になっています。一方で、それ以前に生まれた人は接種対象外です。研究グループはこの事実を利用し、政策の前後での接種者/非接種者のコホートを比較解析することで、交絡因子の影響を抑えた自然実験をデザインしています。

解析の結果、9月2日より前に生まれた群では帯状疱疹ワクチン接種率は0.01%でしたが、その後に生まれた群では47.2%と大きく増加していました。また対象群では、帯状疱疹発症確率は相対で18.8%減少していました。さらに重要な知見として、帯状疱疹ワクチンを接種すると、7年間の追跡期間中に新たに認知症と診断される確率が約20%減少していることがわかりました。またこの認知症発症に与える影響は、男性よりも女性の方が強いこともわかりました。

このように帯状疱疹ワクチン接種が認知症リスクを低減させたメカニズムとして、研究グループは、水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化が減少したことで、神経炎症や神経毒性を抑制し認知症リスクを低下させた可能性について述べています。また別の可能性として、水痘帯状疱疹ウイルスとは直接的な関係はなく、ワクチンによる広範な免疫応答調節による結果である可能性にも触れています。

本研究結果は、帯状疱疹ワクチン接種が認知症リスクを下げる可能性があるという大変インパクトのあるものです。帯状疱疹ワクチンとしては生ワクチンであるZostavaxと、組換えワクチンであるShingrixがありますが、Shingrixでも同様の効果があるかについてはまだ明らかになっていません。また認知症発症リスク低減効果のメカニズムについても、詳細は未だ不明です。今後の研究が望まれると同時に、本知見や関連研究をもとに新しい認知症治療薬の開発へと繋がる可能性が期待されます。

(文責:東京大学大学院薬学系研究科 堀由起子)

A natural experiment on the effect of herpes zoster vaccination on dementia
Markus Eyting, Min Xie, Felix Michalik, Simon Heß, Seunghun Chung, Pascal Geldsetzer
Nature. 2025 May;641(8062):438-446.
doi: 10.1038/s41586-025-08800-x.
Epub 2025 Apr 2.