超高齢期における認知機能低下とアルツハイマー病で異なる認知特性を同定
-大規模な百寿者の全ゲノム関連解析でわかった分子メカニズムの違い-
慶應義塾大学、新潟大学などの研究チームは、100歳以上の方(百寿者)を対象として、加齢にともなう認知機能低下とアルツハイマー病(AD)との臨床学的な相違点を明らかにしました。さらに加齢にともなう認知機能低下ではシナプスの維持に関わる遺伝子が関連していることを同定しました。
日本は世界に先がけて超高齢社会を迎えています。中でも認知症の患者をどのようにサポートしていくか、治療と介護の観点から本学会が中心となって取り組むべき大きな課題であります。一方、長寿大国の日本には9万5千人を超える百寿者がおられ、健康長寿のヒントを我々に教えてくれます。百寿者の方にももの忘れは生じてきますが、重度のADになる割合が少ないこと、ADの危険因子であるアポE遺伝子4型を持つ割合も少ないことが、慶應義塾大学百寿総合研究センターの研究によっても明らかにされていました。
今回、これまでに訪問調査にご参加いただいた1,017名の百寿者の中で、認知機能の詳細な評価と全ゲノムの遺伝子解析に協力して下さった638名を対象として、認知機能の特性を詳しく調査し、391名のAD患者と認知機能の特性を比較しました。その結果、ADの患者が苦手とするMMSEでの「3段階指示の実行機能」が、百寿者では保たれていることを発見しました。さらに、全ゲノム解析に基づくゲノムワイド関連解析により、この百寿者の認知機能の特性には、シナプスの維持にとって重要なPTPRT(protein tyrosine phosphatase receptor T)遺伝子が関わっていることを明らかにしました。
今回の研究成果は、認知症の臨床現場でADと加齢にともなう認知機能低下を見分ける新たな手法として活用される可能性があります。また加齢にともなう認知機能低下の分子機序の解明を通じて、超高齢社会の「健康寿命の延伸」に寄与することが期待されます。
DOI:10.1002/alz.70155
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2025/4/24/28-166458/
(文責 慶應義塾大学医学部 神経内科 西本 祥仁)