日本認知症学会

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顕性遺伝性アルツハイマー病におけるgantenerumab長期投与の安全性と有効性:第2/3相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照プラットフォームDIAN-TU試験の非盲検 延長試験

Bateman RJ, et al. Lancet Neurol. 2025: 24:316-30.

常染色体顕性遺伝性アルツハイマー病(dominantly inherited Alzheimer’s disease, DIAD)を対象にした治験プラットフォームDominantly Inherited Alzheier Network Trials Unit(DIAN-TU)が,最初の二重盲検試験参加者に対するgantenerumabの非盲検延長(OLE)の結果をLancet Neurology誌2025年4月号に発表しました.

DIAN-TUは,米国,英国,フランス,日本などを含む国際共同の DIADの未発症変異保因者~発症初期の患者を対象にした治験プラットフォームです.共通プラセボ群を設定することによって,複数の治療薬治験を並行して実施可能になっています.DIADは,家族性アルツハイマー病とも呼ばれ,3つの病因遺伝子のいずれかの変異によって生じる遺伝性のアルツハイマー病を指します.変異ごとに発症年齢を予測できることから,発症までの年数によって患者を選択することが可能となります.そのため,前臨床期アルツハイマー病のバイオマーカーや治療法の探索の良いモデルとなります.そして,何よりも,DIADという辛い疾患の克服を目指しています.

二重盲検試験では,対象となる参加者に対して4年間にわたって抗アミロイドβ抗体薬gantenerumabまたはsolanezumabを用いましたが,残念ながら認知機能低下の抑制効果を認めることができませんでした.しかし,gantenerumab群ではアミロイドβの除去効果,病態の下流のリン酸化タウやNfLにおける進行抑制の兆候を示しており,希望が持てる結果でした(Nat Med. 27:1187-96, 2021).この二重盲検試験の終了後,全ての参加者が高用量のgantenerumabの投与を受けることのできる3年間のOLEが実施され,今回発表されたのはその結果です.ほとんどの参加者が2年間の投薬を受けた時点で中間解析が行われ,早期中止となりました.そのため,73人の参加者のうち3年間のOLEを完遂したのは18%にとどまります.日常生活および認知機能障害の指標CDR-SBの低下のハザード比は,二重盲検試験またはOLEでgantenerumabを投与された群では0.79,二重盲検試験とOLEの両方でgantenerumabを投与された群では0.53でした.すなわち,長期間にgantenerumabを投与された参加者では,発症や症状進行のリスクが50%近く抑制されたことを示しています.アミロイドβの蓄積量は,SUVRにて3年間で0.71低下しました.一方,抗アミロイドβ抗体薬に特異的な副作用アミロイド関連画像異常(ARIA)は,合わせて53%,微小出血が47%,浮腫が30%,脳表ヘモジデリン沈着が6%に見られました.この試験は小規模であるという制約はありますが,この結果は,症状出現前の介入で発症を遅らせうること,抗アミロイドβ抗体薬が十分に臨床効果を発揮するにはアミロイドβを除去できるだけの十分な量の投与が必要であることを示唆しています.

現在,gantenerumabの改良を意図して設計されたtrontinemabの孤発性の有症候期アルツハイマー病を対象にした第1/2相試験が実施されています.そして,DIAN-TUでは,孤発性アルツハイマー病に先行して,抗タウ抗体と抗アミロイドβ抗体を組み合わせた試験や,発症までの年数がさらに長いDIADを対象にした治験が進行中です.DIAN-TUの一部の試験には日本からも参加しており,全世界で治療薬の創出を目指しています.

(文責 東京都健康長寿医療センター 脳神経内科 井原 涼子)