ミクログリアは凝集タンパク質による神経異常と細胞死をナノチューブのトンネルを形成して助ける
Microglia rescue neurons from aggregate-induced neuronal dysfunction and death through tunneling nanotubes
ミクログリアは凝集タンパク質による神経異常と細胞死をナノチューブのトンネルを形成して助ける
Scheiblich et al. Neuron 112, 3106 – 3125.e8 (2024)
ルクセンブルグ・システム生物医学研究所などからなる研究グループは、ミクログリアが神経細胞内に蓄積したαシヌクレインやタウを直接抜き取り、さらに元気なミトコンドリアを送り込むことで神経細胞を助けているとの新たな細胞間クロストークの存在を発見し、7月25日 Neuron にて報告しました
認知症の原因となるαシヌクレインやタウといった神経毒性分子は、神経細胞内で凝集・蓄積することで、ミトコンドリアを障害して活性酸素を増大するなどして神経細胞死を引き起こします。研究グループが、このαシヌクレイン/タウ蓄積神経細胞の培養系にミクログリアを加えたところ、ミクログリアが神経細胞に突起を伸ばして細胞質と細胞質が直接つながったトンネル「トンネリングナノチューブ)」を形成するところが観察されました。動画でみると、このトンネルを通って神経細胞内のαシヌクレインやタウが、ミクログリアへとかなりアクティブに輸送されていました。このようなミクログリアによる助けを受けた神経細胞は、実際にαシヌクレインやタウによる神経機能障害からレスキューされていたことも確認されました。
では、神経細胞内でαシヌクレインやタウの蓄積によって生じた障害ミトコンドリアが、ミクログリアによって軽減されるメカニズムは、どのようなものなのでしょうか。研究グループはさらに、ミクログリアの持つミトコンドリアをあらかじめ蛍光ラベルしておいて、αシヌクレイン/タウ蓄積神経細胞へと加えてみました。すると、このミクログリア内のミトコンドリアが神経細胞内へと送り込まれていくことが観察されました。なんとミクログリアは、αシヌクレインやタウといった神経毒性分子を抜き取るだけでなく、自身のもつ健康なミトコンドリアを神経細胞内へと送り込んでいたのです。この時、ミクログリアのミトコンドリアをあらかじめ人為的に障害しておくと、神経細胞の正常化は見られず、このミクログリアから送り込まれた健康なミトコンドリアが神経細胞の正常化に直接寄与していることが確認されました。さらに、パーキンソン病のリスクとなる LRRK2 遺伝子変異をもつミクログリアでは、神経細胞へミトンドリアは輸送されるが、蓄積したαシヌクレインやタウの引き抜きが起こらずに、結局ミトコンドリア障害が生じてしまうそうです。
ミクログリアは脳内の細胞外環境を掃除しているものというイメージでしたが、細胞内の新陳代謝にまでこれほどダイレクトに関わっていたというのは驚きです。本論文に掲載されているデータのうちαシヌクレインが引き抜かれる瞬間の動画データが特にすごいので、ぜひご覧ください。
(文責 大阪公立大学大学院医学研究科 梅田知宙)