血液バイオマーカーによるアルツハイマー病の診断は、臨床情報を考慮する必要がある
Diagnosis of Alzheimer’s disease using plasma biomarkers adjusted to clinical probability
血液バイオマーカーによるアルツハイマー病の診断は、臨床情報を考慮する必要がある
Therriault J, et al. Nat Aging 2024;4:1529-1537
doi: 10.1038/s43587-024-00731-y
カナダ,フランス,韓国,スペイン,スウェーデン,アメリカの国際共同研究グループは,血液バイオマーカーによるアルツハイマー病の診断精度を年齢・臨床診断ごとに解析し,11月12日のNature Aging誌に報告しました.
近年,アルツハイマー病に対する抗Aβ抗体薬が日本を含め臨床現場に登場しましたが,使用に際してはアミロイドPETあるいは脳脊髄液バイオマーカーによる脳内Aβ病理の検出が必須とされています.コスト・侵襲性・汎用性の点からは、血液バイオマーカーによる診断が望まれています.血液バイオマーカーの診断検査結果を個人レベルで解釈するには、臨床症状に関連した疾患の有病率(臨床検査前確率)に関する知識が必要です。血液バイオマーカーの臨床実装に向けて,本研究では血液バイオマーカーの診断精度,特に陽性的中率(検査が陽性であった場合,本当にAβ病理を有している確率)と陰性的中率(検査が陰性であった場合,本当にAβ病理を有していない確率)を解析しています.
Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative (ADNI)やBioFINDER-2など,世界11の前向きコホート研究に参加の6,896名のうち,認知障害のある3,503名において,アミロイドPET,脳脊髄液バイオマーカー,あるいは剖検病理をレファレンス・スタンダード(本当の陽性あるいは陰性)として,血液リン酸化タウ(p-tau181,p-tau217,p-tau231),glial fibrillary acidic protein (GFAP),neurofilament light chain (NfL)によるAβ病理の診断精度(陽性的中率・陰性的中率)を,年齢階層別・臨床診断別に解析しています.
各種血液バイオマーカーのうちp-tau217は,p-tau181,p-tau231,GFAP,NfLと比較し,全ての年齢において陽性的中率・陰性的中率ともに最も優れていました.
血漿p-tau217の診断精度に関し,抗Aβ抗体薬の投与対象となる軽度認知障害(MCI)群においては,年齢階層が上がる(高齢者になる)ほど,陽性的中率は上昇し,陰性的中率は低下しました.
具体的には,50~54歳において陽性的中率は68.4%,陰性的中率は94.4%でしたが,90~95歳では陽性的中率は92.5%,陰性的中率は74.6%でした.
すなわち,若い方ではそもそもAβ陽性者が少ないため,血液p-tau217が陽性であっても偽陽性(脳内にAβ病理がないにもかかわらずp-tau217の結果は陽性)である確率が30%ほどある一方,陰性であればかなり高い確率でAβ病理がないことを診断できると言えます.また,高齢者ではAβ陽性者が多いため,血液p-tau217が陽性であれば高い確率でAβ病理を検出できますが,陰性であっても25%ほどは偽陰性(脳内にAβ病理があるにもかかわらず血液p-tau217の結果は陰性)であることに注意が必要と言えます.
次に,臨床的に診断されたアルツハイマー型認知症,前頭側頭型認知症,血管性認知症,大脳皮質基底核症候群における血液p-tau217によるAβ病理の診断精度を解析しています.アルツハイマー型認知症においては,年齢階層によらず高い陽性的中率(95.3~97.5%)が確認されたことから,アルツハイマー型認知症と臨床診断された方で血液p-tau217が陽性であれば,ほぼ確実に脳内にAβ病理が存在すると言えます.
一方,前頭側頭型認知症,血管性認知症,大脳皮質基底核症候群においては,年齢階層によらず高い陰性的中率(91.2~99%)が確認されたことから,非アルツハイマー型認知症と臨床診断された方で血液p-tau217が陰性であれば,ほぼ確実に脳内にAβ病理は存在しないと言えます.ただし,90歳以上の血管性認知症ではアルツハイマー病理の合併のためか陰性的中率は89.4%とやや低く,p-tau217が陰性であってもAβ病理が存在する可能性はあります.また,65歳未満の大脳皮質基底核症候群でも非典型的アルツハイマー病の存在の影響か,陰性的中率は88.2~89.4%とやや低く,やはりp-tau217が陰性であってもAβ病理が存在する可能性はあります.
このように血液バイオマーカー(特に診断精度の高いp-tau217)は,解析対象の年齢や臨床診断によって,結果の解釈に注意が必要と言えます.
MCIやアルツハイマー型認知症の方で特に高齢者であれば,p-tau217の陽性的中率は高く,p-tau217が陽性であれば,Aβ病理の存在が強く支持されます.
一方,非アルツハイマー型認知症においてはp-tau217の陰性的中率は高く,p-tau217が陰性であればAβ病理は除外できると考えられます.
本研究を通して血液バイオマーカーの有用性と限界を理解することで,臨床実装が促進されると期待されます.
(文責 新潟大学脳研究所 春日健作)